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インタビュー2022.12.22

「死とキャンディ」田中童夏先生特別インタビュー

まずは簡単な自己紹介からお願いします。
(田中)はい。田中童夏(たなかどうなつ)です。元々画家の活動しながらpixivや関西コミティアで漫画を10年ぐらい描いています。
田中童夏 プロフィール

略歴
抑圧された子供時代をすごす
2011年頃から黒い紙に色鉛筆で描いた絵や漫画を描き始める
画家の活動と平行して漫画も描き続けpixivや関西コミティアを中心に発表する
懐かしいものと仄暗いものと人形が好き
Twitter
https://mobile.twitter.com/dounatutanaka
pixiv
https://www.pixiv.net/users/498146

現在ボヘミアで連載している『死とキャンディ』についてお願いします。
(田中)2012年頃から描き出したシリーズで定期的に描いていたものではなく「描きたいものができた時に描く」というスタンスでした。10年続けて描いてきたものなので自分の10年間の人生と深く関わっているシリーズになります。昔のものでそのままだと画面がすごく見にくいため、今『ボヘミア』で連載しているものはパソコンで再編集を行い見やすくデジタルリマスター的な感じで内容を変えずに作り直したものです。

pixivに掲載していたもの

『ボヘミア』掲載版
『ボヘミア』vol.2より「うつくしい女の子」

思いついた時に描かれたということですが、描かれている漫画の世界観であったり着想についてお聞きしてもよろしいでしょうか。
(田中)自分で分析した結果なんですけど、あくまで私の漫画って精神の世界が舞台なんです。私自身自分の内面の方にずっと意識が向いているので社会的なものが全然描けないんですよ。内面で起こったことを御伽仕立てにしたりするという…。それしか描けないのかなと最近思います。着想については思いついたことを文字でも絵でもばーっと日記に描くんですけど、現実で起こった出来事はほとんど描かれていなくて。
すごくおもしろいですね。
(田中)たまに夢の内容なんかも書くんですけど、仕事中に思いついたこととか歩いている時に思いついたこととか、それをメモ代わりみたいな感じで日記を書いて、要するにネタ帳ですね。でも本当に無意識のものが出ている感じなんですよ。それを後で見返したら面白いものもあるしそこから引っ張って話を作ったりしていますね。何て言うんだろう、無意識の中にあるものを一応メモしておかないと脳の中が迷子になるので、書き出しておいて後で何かに使うという感じですね。昔美術の学校に通っていた時に授業の一環で、ボールペンのインクを一本使い切るまで思いついたことをずっと描いていくという授業があって。
自動筆記(オートマティスム)のような…。
(田中)そうですね。先生がシュルレアリスムが好きだったんだと思います。その授業が結構面白くて、みんなは全然減らないのに私が一番最初にインクが無くなったんですよ。本当に何も考えないで思いついた絵とか言葉をずっと描き出していって。そういう授業があるから今日記も続けられてるのかなと思います。原型がその授業ですね。無意識から拾っているみたいな。メモしとかないと忘れちゃうので、どうしても。
田中童夏先生の特徴として黒い紙に描かれているということがあると思うのですが、そのきっかけなどお聞きしてもよろしいでしょうか。
(田中)黒い絵の活動をし始めたのが10年ぐらい前で、その前はペン画で絵を描いていました。それでペン画を額で飾る時にマットという絵の枠になる別の色の紙があるんですけど、それにちょうど黒い紙があったんですよ。ボーッとしながらその黒い紙にお気に入りのぬいぐるみの絵を描いたら、結構いい感じになったんです。その時に「あれ、このタッチいいな」と思って。ちょうどその時デザインフェスタというイベントがあって、それに出る予定だったんですね。それで本を作りたいなと思っていたのですが、話は決まってるけどどんな風に描くかは全然決まっていなくて。そこで作ろうと思っていた本が『死とキャンディ』の元になった『ウォンモさん』っていう羊の漫画で、夢の話だしこれで描いたら面白いと思ったんですよね。描き終わった後に夢という話の内容と絵のタッチがすごくマッチして。だから、黒い絵を描き始めたきっかけはなんとなくぬいぐるみの絵を黒のマット紙に書いたことですね。
漫画家としての活動と画家としての活動はどちらが先だったんですか。
(田中)画家ですね。ずっとファインアートや版画をやっていて、私自身漫画を読んでるほうでもなくて描けるとも思っていなかった。学校を卒業した後に版画が家でできないということでずっとイラストよりの絵を描いていたんですよ。でも『ウォンモさん』という作品が作れたので。
画家としての活動で印象に残っていることはありますか。
(田中)個展ができたのがやっぱり嬉しいですね。
展示されている絵も黒い紙に描かれていますよね。
(田中)そうですね。まったく同じ画風で描いていますね。私の作品を見てくれている方って結構長い方が多くて、それがすごく嬉しいですね。もちろん最近知ってくださった方も嬉しいですけど。10年もやっているからかもしれないですけど、ずっと知っている方が結構チラホラいて、それがすごく嬉しいです。
『死とキャンディ』では、孤独な子どもたちの物語を描かれている田中先生ですが、自身のプロフィールにも書かれている「抑圧された子ども時代」について可能な限りお聞きしてもよろしいしょうか。
(田中)プロフィールを書くときに何を書こうかなと思って『死とキャンディ』も子どもの話だし自分の子供の頃のことを大雑把にまとめたプロフィールになりました。感情を外に出せない感じの子どもだったんですよ。感情自体は自分の中に渦巻いているんですけど、出す方法も知らないし出せるような人もいないしで閉じた世界でした。今ようやく大人になって絵とか漫画とかちょっとは描けるようになったのでそれで清算しています。だから、今やっているのは子どもの時に溜め込んだ反動というんですかね?もしかしたら、子供の時に溜め込んだものがもう全部なくなったら自分は描けなくなるんじゃないかって心配はちょっとありますね。
子どもの時のエピソードみたいなものはありますか?
(田中)自己主張したり怒りの感情を出したら怒られる感じだったんですよ。抑圧ってされてきたら、自分が何を考えているか分からなくなってくるんですね。だから、子供の時にあなたはどう思うとか今どんな気持ちかとか言われてもわからないしか言えないんですよ。私が怒りっていう感情を初めて覚えたのが二十歳を過ぎてからなんですね。それまではずっと優しい子優しい子と言われてきたけど、優しいっていうのは怒りの感情を知らないから怒ったことがないというだけで、優しいというわけではないんですね。子供が自分の自我が芽生えたというのは、物心がつくと言うじゃないですか。でも自分の場合は本当に成人してから物心がついたみたいな感じで。子供の頃は内側に内側にみたいな感情が煮えたぎっているんですけど、それらの全部が外に出る方法を知らないし人もいないしで内側にたまっていて、今それを作品として反動で返しているという感じですね。
初めて感じた怒りはどんなものでしたか。
(田中)毒親とかではないんですけど、母との関係でいろいろあって。周りから見たら仲の良い家庭ですが、自分が勝手にこんがらがってこじらせまくってるんですよ。そのまま大人になってしまったので、最近思うのは変な言い方ですけど、治療みたいな感じで描いているところはありますね。昨日のことは覚えていないけど、子どもの時のことは覚えているみたいなそんな感じですね。
私生活についてはどうでしょうか。
(田中)私は都会でレジ打ちと清掃の二つのバイトをしながら生活しています。貧乏なんですけど、そこそこのびのび楽しく暮らしています。今日も清掃の仕事に行ってきました。私生活はツイッターを見てもらえれば分かると思いますが、ずっとお菓子ばっかり食べています。飴ちゃんとか…。
『死とキャンディ』の2話「うつくしい女の子」でもお菓子を食べている女の子の話でしたね。

『ボヘミア』vol.2『死とキャンディ』第二夜「うつくしい女の子」より

(田中)作者の内情を言ったら萎えてしまう人もいるかもしれないですけど、あの女の子の話は一時期私自身が拒食症だった時期があって、そこから着想を得ています。だから女の子のキャラクターをわざとガリガリに描いています。
物語を作る際は物語の中に入って描かれている感じでしょうか。
(田中)私はその時一番描きたいものを先に思いつくタイプで、言わせたいセリフとか言いたいセリフとか描きたい場面とか、それを先に思いついてそこから周りを固めたり繋げていく感じですね。だから大元のテーマを一本決めないとグダグダしちゃって。描くときは大きなテーマが一つ決まればどうにかなるかなという感じですね。一度夢を元にした漫画を描いたことがあるんですけど、何の脈絡もなく植物のウツボカズラの夢を見たんですよ。擬人化した植物たちがドロドロの昼ドラみたいなことを繰り広げる夢で。起きた時に面白いなと思って日記に書きとめて、それで一本話を作ったこともあります。結構そういった直感を信じるタイプなのと、夢とか心理学とかも好きなので。よくわからないけど気になるなぁというものは、後ほど自分に関わってくることを知っているので描いています。
ボヘミアで気になる作家はいますか?
(田中)Twitterでも書きましたが、『私が白髪になったら』のRei先生の作品がすごく良いです。あれは本当に自分のおじいさんやおばあさんの写真なんですかね。もしそうでなくてもその人に対する愛がないと描けないじゃないですかあの話は。本当に身を削っているというか魂を削って描いているなぁというか、そういう風に思いました。あの二人の夫婦を孫の立場から描いているのかなぁって。

Rei Sinkevich先生作『私が白髪になったら』(『ボヘミア』vol.1より)

最後に読者に一言お願いします。
(田中)『死とキャンディ』は現在15話までストックがあります。当時のピュアな自分が描いたもので、現在の私が『死とキャンディ』を描くことができるのかという心配は強くあります。現在に話が追いついた場合『死とキャンディ』もいいですけど、私としては今後新作も描いていきたいと思うので、良かったらそちらの方も見ていただけると嬉しいです。
1月1日発刊の『ボヘミア』vol.3に『死とキャンディ』の3話と田中童夏先生の新作『はつひので』も掲載されます。本日はどうもありがとうございます!
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